おもいつき

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バーフバリ

ニケがインド舞踊の先生からおすすめだという映画を聞いてきたそうでして。当然インド映画です。

 バーフバリ 王の凱旋

インド映画というとボリウッドのイメージが強いですが分類としては若干違うらしいです。インド映画の分類というのがよく分かりませんがとりあえず歌ったり踊ったりはしてるので心配はいりません。
この映画は前・後二部作の後編に当たり、前編として「バーフバリ 伝説誕生」が以前に公開されています。
お勧めされていた先生によると、全編クライマックスという感じなので後編だけ見ても楽しめるとのことでしたが、ちょうど前編のアンコール上映もまとめてやってる映画館があったのでせっかくならと大森まで行って来ました。

が、例によってニケが遅刻したのでこの日は結局前編だけ見て終了。後編はまたの機会に。
というか、前編を見ただけでお腹いっぱいすぎて2作をまとめて見るのは明らかに過食に過ぎるということで、しばらく消化してから改めてゆっくり見に行くべきだという判断に。
ということで2週間ほどおいて先日やっと後編も見てきました。

どんな感じの映画なのかはこちらの古代インド版マトリックスみたいなアクションシーンを見てもらえればだいたい伝わるかと思います。

www.youtube.comどうでもいいことですがこの場面、本編クライマックスのアクションシーンとしか思えない濃さですが、ストーリー上は主人公の出自を説明するために脇役のジジイが唐突に語り始めた回想シーンのごく一部です。

通しで言って非常に面白い娯楽映画でした。
もし日本やハリウッドでこれと同じ脚本を書いたら映画マニアなどから「ストーリーがご都合主義」「展開に説得力が無い」などと酷評されることが容易に想像されますが、この映画の場合そんなことはまったく問題になりません。インドだから。
おそらく昭和のジャンプ漫画のごとく「困難が発生 → 軽く苦戦した後主人公がズバッと解決」という流れを楽しむ物であって、その流れが少々強引だったり激流すぎたりしてもいちいち気にしないという姿勢で臨むべきなんでしょう。細かいツッコミなど怒濤のアクションシーンで押し流し、あとは歌とダンスでなんとかするというインド映画らしいアプローチ。
もしくは水戸黄門のように話の展開および最終的な着地点は共通認識とした上で、その過程がいかにド派手に演出されるかを楽しむとか。

とにかく演出が派手で「見て楽しめること」にひたすら主眼を置いて作られている印象。作ってる方も楽しかろう。
マトリックス・リローデッドの100人スミスによく似たアクションシーンやレッドクリフかHERO(中国映画の方)辺りで見た気がする構図で雨のように降り注ぐ矢の映像、何の映画か忘れたけどソリで雪崩とチェイスする映像など、なんかこれどこかで見たことあるなという感じの名シーンがてんこ盛りです。
というより「ぼくの大好きなアクションシーンを自分の映画でも再現してみたよ!」という感じ。全力で。
普段映画をほとんど見ないMayugeですら分かるので、生粋の映画ファンならたぶんもっとたくさんの パクリ オマージュシーンを見付けることができるのではないかと思います。

あと壮大なBGMがわりと好みなのでサントラとか手に入るなら欲しいんですけど。できれば物理メディアで。捜してるとインドの配信会社の公式と思しきYoutubeチャンネルでわりと聞くことはできるんですけどね。

とりあえず映画内には見ているとツッコまずにはいられないような部分が多々あるんですが、心の赴くままに突っ込みの文章を書いてみたらなぜか前編の壮大なあらすじのようになってしまいまして。せっかく書いたので記念に置いておきます。公式動画アドレスの自分用メモも兼ねて。

冒頭は背中に矢を受けた初老の女性が赤ん坊を抱いて川を下りながら逃げているシーン。若い頃は美人であったことが窺えるもののなんとも言えない目力を感じる女性です。もし小学校の通学路に住んでいたら児童に口やかましく指導して「鬼ババア」というあだ名を付けられていたであろうと容易に想像できるといえばなんとなく雰囲気は伝わるでしょうか。昔は王妃だったんだが背中に矢を受けてしまってな
いや、せめて矢は抜けよと観客が思うであろうタイミングで追手の兵士に襲撃されますが女性はおもむろに背中の矢を抜き放ち、その矢をナイフのように扱ってアサシンのような身のこなしで追手をすべて返り討ちにします。この映画はおおむね万事こんな感じです。危機的状況からの超人的な活躍による解決。そこにリアリティーはありませんがカタルシスは特盛りです。

この後、女性はついに力尽き、赤ん坊の命を守りつつ武蔵坊弁慶の如き立ち往生を遂げまして、その赤ん坊が現地の村人に引き取られ、シヴドゥと名付けられて立派なヒゲの青年へと成長したところから物語が始まります。

青年は自分の出自は知りませんが幼い頃からなぜか川の上流に興味を懐き続け、ついには滝を登って上流を目指そうとしては転落を繰り返すようになります。育ての母はそれを止めさせようとシヴァ神に願掛けをし、壺いっぱいの水を御神体のリンガまで1000回運んでかけるという苦行を始めますが、そこへ現れたシヴドゥ青年、こんなことを繰り返していては母が体を壊してしまうと石でできた巨大なリンガを担ぎ上げ、滝壺まで移動させてしまいます。これで水はかかりっぱなし、おかんも苦行をせずとも願掛けもし放題。なんという孝行息子か。お前が滝登りを止めるだけでよかったんだよ。この映画はおおむね万事こんな感じです。

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うろ覚えですがなんとなくBGMの歌詞が違う気がするので日本で字幕公開されてるのがテルグ語版、この動画はタミル語版かもしれません。ていうか「テルグ語」ってGoogleに打ち込むとサジェストのトップが「バーフバリ」って出るんですが。8000万人が使っているという言語に対して今現在日本で最も重要視されてる情報がバーフバリですか。

この騒ぎのさ中、滝の上から流れ落ちてきた木の仮面を拾ったシヴドゥはこれに心を奪われたため滝登りはあっさりとマイブーム終了。願掛けが通じたと母は喜んでいますが、あるとき仮面を砂に押しつけてみたところ残された影像が美形だったことからこの仮面の持ち主は美人に違いないと確信し、美女の幻影に導かれながらこれまで以上の熱意をもって滝登りを再開します。諸星あたるもびっくりの行動力です。おかんの願い速攻で台無しだけどインドなので気にしません。

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というか木彫りの仮面の内側がそんなデスマスクのごとく持ち主の顔面にぴったり密着してるのか非常に疑問ですが。あれですか、幼少の頃からずっと仮面を付けられていて顔面がぴったり仮面の内側の型になってるとか? なにそれこわい。

そして滝を登り切ってもう何回か歌ったり踊ったりした結果、仮面の持ち主の美女および川の遥か上流にあるマヒシュマティ王国へのレジスタンスであるクンタラ国残党の方々とお近づきになります。そういえば音楽に合わせて踊っていくと味方がどんどん増えていく感じのゲームが昔あったような
そしてここでヒーロー物の定番ミッション、「囚われのお姫様救出」発動です。ただしそこは悠久の国インド、これまで救出ミッションに手間取ってるうちにインド時間で軽く二十数年経過しており、長引く監禁生活でお姫様は今や狂気の光を目に宿したオバハンと化しています。こんなのがもし小学校の通学路に住んでいたら即座に児童に「鬼ババア」というあだ名を(以下略)

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シヴドゥは敵国首都に単騎乗り込み、八面六臂の鬼神の如き活躍で無事に囚われのデーヴァセーナ王妃を救出しますが、途中で追手に追い付かれて交戦状態に。そこに良いタイミングでシヴドゥを探して川を遡ってきた捜索隊の村人たちや今さら様子を見に来たクンタラ残党の方々も合流し、雷雨まで降りだした混乱の中で追手を指揮するマヒシュマティ国の王子を見事討ち果たしました。さらに追手の中の一人、王国最強の剣士でありショーン・コネリーをカレー味の煮付けにしたような外見のカッタッパという爺さんが雨に洗われたシヴドゥの顔を見た途端、映画タイトルである「バーフバリ!!(アクセントは2番目のバ)」の言葉を叫んで跪き、シヴドゥに対してスライディング服従のポーズを取りました。やがてカッタッパはシヴドゥの生い立ち、そして「バーフバリ」とは何なのかを語り始めます。

と、ここまでが映画の導入部です。日常の活躍ありロマンスあり潜入あり戦闘アクションあり窮地あり逆転勝利ありとすでにフルコース料理を食べ終えたような満腹感と大団円の雰囲気ですがストーリー的にはやっとイントロが終わったところです。

そしてシヴドゥの生い立ちを説明するためにまずはシヴドゥの祖父が病死するところまで一旦話が遡ります。お前話しが長いってよく言われねぇ? Mayugeもたいがいですが。
この映画について事前に読んだ評判で「怒涛の回想シーン」という表現を見たんですがどうやらそこに差し掛かったようです。

シヴドゥの本来の名前はマヘンドラ・バーフバリ。かつて民衆から絶大な支持を受けたマヒシュマティ王国の王子 アマレンドラ・バーフバリの息子です。
だいたい50年くらい前、マヒシュマティ王国の建国の父たるシヴドゥの祖父が夭逝し、その跡を自分の息子に嗣がせてしまおうとホクホクしてた王兄ビッジャラデーヴァは怖そうな奥さんっていうか明らかに怖い奥さんである国母シヴァガミ(冒頭の鬼ババアA)にさらっと却下されます。佞臣を排除(物理的に)して家臣団を掌握したシバヴァガミは先王の遺児であるアマレンドラ(以下バーフバリ)と自身の息子であるバラーラデーヴァの二人をともに王子として育成し、より王としてふさわしく成長した方を王位に就けると宣言します。このおばちゃんの「この宣言を法と心得よ!」が一連の回想シーンにおける決め台詞です。「月に代わってお仕置きよ!」的なものと考えればいいでしょう。実生活でも各自積極的に使っていくと良いと思います。言うときはクワッと目を見開いて。

しばらくは王子二人が文武両道に秀でて育っていく様子が描写されますが何かにつけてバーフバリがいかに人格的に優れた人物であるかが採り上げられ、四六時中こんなのと比較されてればそりゃバラーラデーヴァ王子も性格ゆがむわって感じです。
そういえばバーフバリが奴隷身分の兵士達にも親しく接し、食事中の彼らに声をかけ、食事を貰って共にするというシーンがありまして。インドの感覚ではカーストが異なる人々は同じものを食べることも許されないという前提があるため、開明的な王子に兵士達が感動するというシーンなんでしょうが、現代日本人感覚だと空気読めないボンボンが下っ端の食べ物を興味本位に取り上げて食っちゃったように見えてちょっと微妙です。これが日本の映画なら武士の子が自分の白米の飯を農民に分け与えるか交換するかして親しく接するような描写が相当するんだろうなと。

さて、王子二人が立派なヒゲに成長した頃、そろそろ王を決めなければという良いタイミングで唐突に蛮族カーラケーヤが10万もの大軍勢を率いてマヒシュマティ王国に攻めてきます。対してマヒシュマティ王国が動員できる兵士は2万5千。絶望的に不利な状況です。
周辺に属国を従えて壮大な城郭を整備するような大国に数倍する兵力を動員できる蛮族っていったい何者だよ。しかもそんなものがいきなり首都に迫る勢いで襲撃してくるって、そいつらは普段いったいどこに潜伏してるんでしょうか。
とにかく国母シヴァガミはこのカーラケーヤの首領を見事討ち果たした方の王子を王位に就けると宣言します。ここまで引っ張って最後は筋力勝負ですか母上。この宣言を法と心得よ!
自軍に数倍する敵軍に対してバーフバリは「三叉作戦」を提案します。周囲は三叉作戦など机上の空論だとして反対しますがバラーラデーヴァ王子もこれを良しとし、マヒシュマティ軍の左右両翼をそれぞれの王子が指揮して功を競うことになります。この三叉作戦がいったい何なのかみんな知ってる前提で話が進みまして、作中では一切説明がなくてわりと投げっぱなしですがたぶんいわゆる「カンナエのパクリ」ハンニバル(噛み付く博士じゃない方)によるカンナエの戦いは、倍近くいるローマ軍を少数のカルタゴ軍が逆に包囲し、ほぼ皆殺しにしたという歴史上非常に有名な戦闘です。しかもローマ側の犠牲者6万に対してカルタゴの被害はわずか6千という完封勝利。お手本と言っていいような理想的な包囲殲滅戦の実践例とされ、紀元前の話にもかかわらず現代の軍事においても教科書に載るほどとかいう表現をよく目にします。軍隊の教科書なんか見たこと無いので本当かどうか知りませんが。バーフバリ界では「誰でも考えつくけど実現できるわけが無い非現実的な戦術」という扱いの様子。

とりあえず三叉作戦発動まで序盤は正面からの戦闘が描かれますがバラーラデーヴァ王子の策略でバーフバリ率いる部隊にはまともな武器が支給されません。そろそろ悪者らしくなってきましたな王子。しかしバーフバリ考案の奇策によってあり合わせの物を使って効果的に攻撃を仕掛けます

そういえばこの赤色一反木綿が飛んでるシーン、予告だかCMだかで当時見たことあるわ。
バーフバリの変造カタパルト戦術は敵に一網打尽の大損害を与えたように描写されますがどうやら大勢に影響は無かった様子。敵の進行が止まるわけでもなくそのまま戦況は進みます。

一方マヒシュマティ軍中央部では重装歩兵が盾を構えてファランクスを形成‥‥っていうか盾というより巨大な鉄板をびっしりと並べてむしろ要塞を形成するといった風情。けどやってることはおおむね歩けないファランクスです。その様子はどう見てもローマ軍
カンナエの戦いの流れは大雑把に説明すると、自軍中央で敵の攻撃を受け止めながら圧されてるかのようにジリジリと後退して凹型に変形した陣形の中央に敵を誘い込み、その間に左右に配置した騎兵が機動力を活かして後方に回り込んで包囲を完成するという感じ。銀英伝読者にはおなじみの「敵を圧していると思ってたのに気がついたら逆に包囲されている」というアレです。真ん中が踏み止まってその場で持ちこたえちゃったら意味ないじゃん。
騎兵の機動力を活用したカルタゴ軍の活躍をド派手に再現したいけどローマ重装歩兵の見事なファランクスが敵を圧倒する様子も描きたい。よし、味方が両方やったことにしたろという振り切った発想。細かい設定とかにこだわっていたらこんな決断はできません。ある種の天才か。
ただ、巨大な盾をズガガガガッと一気に並べ立てて陣を形成するシーンは鳥肌が立つほど格好良いです。とにかくおしなべて理屈より勢い。それが魅力の映画なので方針としては間違ってないと思います。
戦術としてはドリフターズ織田信長が序盤のエルフ村防衛戦でやったやつに似てるような気がしますが、さすがにそんなところにまで元ネタが及ぶことはないか。さっきシヴドゥが「首おいてけ!」やりましたけどね。

そしていよいよ見せ場である両翼の騎兵突入。騎乗で突入するバーフバリに対してバラーラデーヴァは前部に巨大草刈機のごとき回転刃が付いた戦車で敵味方をバサバサ薙ぎ払いながら突進していきます。今味方って言ったか? Mayuge内でこの殺戮装置を嫌チャリ(遭遇したら嫌なチャリオットの略)と呼称することにします。
さらに敵軍が捕虜を盾に使ってきたり中央陣地が破られそうになってバーフバリが単騎戦場の端から駆け戻ってきて救出したりと些細なことは起こりつつ戦闘が進行します。陣形を乱すんじゃねぇよ。
すべての戦果はバーフバリに。どうやらバーフバリが居ない場所では味方は自力で勝つことすら許されないという厳しい掟がある様子。話の展開は稚拙ですがやっぱり演出が熱いです。

そしてまだ細々と紆余曲折はありますがバーフバリが獅子舞を舞い、バラーラデーヴァが撲殺チュッパチャップスを振るうことで会戦に勝利した後、国母シヴァガミはバラーラデーヴァの武勲を讃え、しかしより民のためを思って戦ったバーフバリこそが王位を継承するに相応しいと宣言します。国民は勝利に沸き立ち、新たな王の誕生に歓声を上げるのでした。

‥‥と、ここで突然場面は立ち話してるシヴドゥたち一行に。あ、そういえばこれショーン・コネリーのカレー煮が話してる昔話だったか。すっかり忘れてたわ。話長いなお前。
そしてこのあとショーン・コネリー(カレー味)からバーフバリはすでにこの世にないことが告げられ、さらに衝撃の告白の一言で唐突に映画は終了。

見終わったあとニケとMayugeが最初に交わした会話は

 「回想シーンだけで映画終わった!」

でした。あと、

 「ところでこれ、まだあと3割くらい回想シーンやり残してるんでは?」

どう考えても冒頭のシーンに繋がるまでとは状況が違いすぎます。というか「シヴドゥの生い立ちを語りだした」って書いたんですけど訂正します。映画の半分をまるごと回想シーンに使ったのに生い立ちまでまったく話が至ってません。回想シーンに入ってから母親が姿はおろか名前すら出てこないままに終了。

結論 : 爺の話は長い。

ちなみに後編である「王の凱旋」のOPはそのまま前編の主に回想以外の印象的なシーンを石像化した風のダイジェスト映像になってまして、こちらも公開されてます。

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勢い余ってマヒシュマティ王国国歌の歌詞を公開する民まで出る始末。ジャイ マヒシュマティ!